00

3/11
前へ
/28ページ
次へ
昔から人付き合いが苦手で、どちらかと言えば冷めた性格。人より少しだけいい見た目。どちらも自覚している。 そんな私にとって、目立つ事なく平和な高校生活を過ごすと言うだけでも難しいのではないかと思う。 友達がいて、恋人がいて。何かに必死で打ち込める。そんな普通の高校生が出来たら、とても幸せだろうに。 「……あの」 ふと、誰もいないはずの隣から声がした。低くもなく、だからといって高過ぎる訳でもない中性的な声。 それに惹かれて横に顔を向けると、一人の女の子がいた。大きな目に黒くて長い髪をした女の子が。 「何か用?」 「あぁ、ただぼんやりしてたから声を掛けただけなんだけど。私、柴谷 里玖(しばや りく)って言います。よろしく」 「私は加賀屋 紀月。よろしく」 手を差し出されたので握り返す。柔らかいその手の感触が気持ち良くて、つい目の前にある顔を凝視してしまう。 長い黒髪は手入れが行き届いているのかとても綺麗で、ぱっちりとした大きな目をしている。睫毛も長い。 綺麗というよりは可愛い顔。よく私の友達が主張している言葉も、この顔を見ればよく分かる気がする。 『可愛いと綺麗は違う。貴方はぜったいに綺麗な方なのよ』 頭の中に浮かんでくる言葉は友達の口癖。考えたら現れそうなので、馬鹿げた考えを切り上げる事にした。 「ねぇ、紀月ちゃんって呼んでいい?私の事は好きに呼んでくれていいから」 「好きにしたら?別に呼び方なんて何だっていいもの」 「そうかな?やっぱり仲良くなる為には名前呼びの方がいいと思うけど」 笑いながら言う彼女の表情とその言葉に苦笑を浮かべてしまった。そんな事で何かが変わる訳でもないだろうに。 しかし嫌な気はしない。名前で呼ばれる事も、こんなに可愛い子と友達になれるかもしれないという事も。 「そう。なら私も里玖って呼ばせてもらうわ。これからよろしくね」 「うん、よろしく」 顔を見合わせて笑い合う。友達を作るつもりは少しもなかったけど、彼女ならいいかもしれない。
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加