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振り向かなくても分かる。嗅ぎ慣れた花のような匂いも、視界に入る髪の色も。あの馬鹿以外あり得ない。 限りなく金髪に近い茶髪は癖毛で彼女のコンプレックスらしい。今はきっと幸せそうな笑顔をしているはずで。 「何してんのよ、有希(ゆき)」 「私の可愛い紀月に会いにきただけじゃない。何、駄目なの?」 「いきなり抱き付かれるこっちの身にもなって欲しいんだけど。ほら、里玖が引いてるじゃない」 目の前で苦笑している里玖を見る。相変わらず私に抱き付いている有希もそちらへ視線を向けたらしい。 「うわ、うわ、何この子!可愛い!!」 いきなり上ずった声。有希が興奮している時はいつもこうだ。単純なんだから。 私から離れて有希は里玖をじっくりと観察している。その顔はだらしないとしかいえないような笑顔で。 「紀月は綺麗だけど、君は可愛いのね。名前は?紀月とはどういう関係?」 「あ、えっと。柴谷 里玖です。紀月ちゃんとはさっき仲良くなったばかりで」 「そう、じゃあいいわ。私の知らないところで紀月に友達が出来るなんて許せないもの!」 「何それ?ていうか、どうせ休み時間の度にこっち来る気でしょう」 「当たり前よ!貴方に纏わり付く害虫駆除の為にね」 清々しいほどの笑顔で言い放たれた言葉は今まで何回聞いたか。数えていないから分からない。 何でこの子はこんなにも私に異常な程の愛情を向けて来るのか。慣れてしまったから気にはならないけど。 「里玖の友達?」 不意に聞こえた男の声。そういえば、里玖の幼馴染み君が会いにきてるんだった。忘れてた。 私の横にいる有希はもう警戒してるし。この子の男嫌いはなんとかした方がいいかもしれない。
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