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さっきも言ったが、俺は中学からこの格好だ。幸いあんま体が大きくならなかったし、声も中性的。偽るのは楽だった。
それなのに。たった一人の女に会っただけで崩れるとか勘弁して欲しい。自分の事が嫌いになりそうだ。
「里玖?どうした?」
「あ?別に、何にもねぇよ」
「何にもないって顔してねぇから言ってるんだよ。どうせあれだろ?加賀屋さんの事だろ?」
「は、ぁああ!?」
言い当てられて驚いた。でも待てよ、俺が紀月ちゃんを好きになった事なんか分かってないはずだ。慌てるな。
慌てて否定なんかするから気付かれるんだよな。別に新しく出来た友達の事を考えるのは変じゃないはずだ。
なのに、何故か宗也は笑ってやがる。こいつのこの顔は絶対にいい事じゃない。長い付き合いだから分かってる。
「あの子綺麗だったよなぁ。好きになったっておかしくないよ」
「……お前さ、本気で黙ってくれよ」
流石幼馴染みと言えばいいのか。俺の心の中や態度でそういうのはお見通しだって言いたいのかよ。笑っててムカつく。
これは否定しても無駄だろう。それにもう否定する気も起こらない。何か疲れた気がする。
「もうなんでもいいや、好きに考えとけよ」
「そんな素っ気ない言い方しなくても。分かりやすい里玖が悪いんだからな」
「何だよ分かりやすいって。俺、そんな態度とった覚えねえんだけど」
「俺と握手させなかったくせに。もう末期だろそれは」
そう言われたら何も言えなくなる。確かに、握手させる事さえ嫌がるって俺はどんだけ束縛したがる奴なんだって話だよな。
付き合ってもいない。しかもあっちは俺の事を女だと信じ切っている様な奴なのに。目眩がしそうだ。
それでも嫌なものは嫌。彼女があまりにも綺麗だったから、宗也に触らせたくなかった。
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