第一夜

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ただ単にコーヒーを飲みにきただけである。一見突拍子もなく贅沢、かつ馬鹿げた行為であるが、彼にしてみれば水道から流れる水をコップに汲むくらいちょっとした行為なのである。彼にはたくさんの与えられた能力があり、そのうちの一つ「空間跳躍」がそれを可能にしている。 公一が路地の裏手へ入ると、見慣れたというかお約束というか、馴染みの光景があらわれた。 (なんでどこにでもおなじような奴らはいるかな・・・) いかつい若い男3人がナイフをちらつかせながら女性一人を囲んでいる。いわれずともカツアゲだろう。 なるほど、女性の身なりは良く金には困って無さそうだ。公一があれこれ考えていると男達が気が付いたようだ。 「ぁんだよ。ん?この娘?あぁ、知り合い知り合い。だからよ、早くどっかいってくんない?」 金髪のやたら痩せている子分格の男はシッシッと手をヒラヒラさせた。公一はめんどくさそうに髪をかきあげる。 「バカだとバレる嘘ついてんじゃねーよ。第一そんな方法で金手に入れたってお前らどーせたかが知れてるぜ?お前らに使われる金が不憫でしかたねぇ。だいたいお前らみてぇな汚ぇやつらがこんなお嬢さんとつりあうかっつの。」 若者達の顔は怒りで熱くなり、こめかみには血管が浮き出ていた。女性は後ろでハラハラと様子を見守っている。 「・・・おいオッサン、てめぇ自分がわかってねぇらしいな・・」 「・・・オッサン?」 長髪の子分格の男の言葉に髪をかきあげていた公一の手がピタリと止まった。こめかみがピクピク痙攣している。 「おいお前ら・・・口に気を付けろ・・・俺はこうみえても39だ・・・!」 「充分オッサンじゃねぇかぁ!!」 金髪の若者が公一の顔面目がけて拳を繰り出す。 「うわぁっ!・・・ぐぇ・・」 公一はその攻撃を左に一歩動いて避け、右足で若者の背中を押しやった。自分の繰り出した攻撃の力と公一の押した力が合わさり、金髪の若者はゴミの山に頭から突っ込んでいった。 「てめぇ!よくも!」 長髪の若者が公一の脚目がけてタックルを仕掛けた。公一は目にも止まらぬ速さで後ろに回り込み、右手で若者の長髪をつかみ引っ張りあげ、耳元に顔を近付ける。 「いでででで!!放しやがれ・・・!」 「俺は『オッサン』じゃねぇ。」 「このオヤジ・・・!」 瞬間、長髪の若者の体は空中を飛び、金髪の若者とともにゴミの山に埋もれた。
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