prologue

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 降りしきる雨音が外界から隔離された建物中に響き渡り、轟く雷鳴が大地を揺らした。  どれくらいの月日が経ったのだろうか?  携帯の電池は切れて日付を確認する術もなく、太陽の明かりが差し込まないここでは何度朝が来たのかもわからなかった。  カサカサに干からびた唇が割れ、顔の筋肉を動かすだけで唇の皮が裂ける。  喉の渇きは熱に変わり、息さえもままならない。カラカラの舌がスポンジみたいに腫れてもう言葉すら発せなくなってしまった。  爬虫類のように乾いた皮膚は全身の筋肉の衰退と共に(それこそイグアナのように)垂れ下がる。  冷たい暗闇の中で僕は独り身体を震わせた。  棺に押し込められたらミイラとはこんな気持ちなのだろうか?  棺の窮屈ささえ無いものの、衰弱し切った身体の億劫な不便さはそれに似ている。  視界は真っ暗。暗闇に眼が慣れてはいるが室内の内装の凹凸が辛うじて見えるだけだ。  傍らには刃物でズタズタにされた女の亡骸。  彼女は僕が殺した。  喉の渇きを潤わせる為に血を求めて。胃が収縮して千切れそうな空腹に堪えられず肉を求めて。  見ず知らずの彼女を……僕は後ろからナイフで……ずぶり。  あの肉を突き刺す感触が忘れられない。やつれて一回り小さくなった右手に残って消えない。  生きるためとはいえ、僕のやったことは鬼か悪魔の所業。  僕は人を殺した。
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