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仕方なかった。仕方なかったんだ。
この苦痛が嫌で、死ぬのが嫌で、生きてここを出たくって。君を殺した。
それなのに僕はまだここにいる。
"制限時間内"に君を殺せなくって、取り返しが着かなくなってから君を殺して、君を食べて、今まで生きてきた。
深い闇の中でたった独り朽ち果てる。これは彼女を喰らった代償なのだ。
人を殺した罪悪感にさいなまれ、脱出しようと共に生きてきた戦友とも言える存在を失い。
僕を包むのは絶望と孤独。
僕はカラカラのミイラみたいにやつれて衰弱し、君は肉を、皮を、臓物を腐らせて……ゆっくりと脳みそが鼻から流れていく。
この閉ざされた空間の外には僕の居た世界が広がっている。
分厚い鉄の扉一枚向こうには僕達の世界……だった場所。今はもう過去形。
母さん、父さん、みんな。
「……あひ……へ」
感覚の無くなってきた舌をもぞもぞと蠢かし最後の抵抗に僕はその扉に爪を立てた。
出して出して出して出して!
舌っ足らずな言葉と扉を引っ掻く音の不協和音が暗闇の中に響き渡る。
独りは嫌だ。独りは怖い。独りは寂しい。
しかしどんなに足掻いても奴は許してはくれなかった。
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