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「あっ,順也だ。おはよう」
「あ……おはよう,未由」
いつもと変わりない朝の光景。たまたま昇降口の入り口で会った僕と未由はいつも通りのあいさつを交わした。
僕たちの通っている中学校は周りを山々に囲まれていて,自然と一体化しているようだった。たぶん理科とか美術の時間のスケッチとかで困ることはないだろう。
「ようっ,ご両人!朝からお熱いですなぁ~!」
「ま、真!!」
僕と未由が教室に向かって歩き出すと,いつから背後にいたのだろうか,真がニヤニヤしながら立っていた。
ワイシャツの第2ボタンまで全開に開けていたので,そんなに胸元を見せてどうしたいのだろうと考えてしまう。今は夏だから仕方ない部分もあるけど。
「なんだよ,そんなにびっくりしなくたっていいじゃねぇか」
「いきなり後ろから大きな声で話し掛けるなよ!っていうか,なにそのご両人って!?」
「いやぁ,そのまんまの意味だぞご両人は」
「そういうことじゃなくて!まったく……未由も何か言ってやってよ」
「えっ,私?私は別にご両人って言われても構わないけど……」
「えっ……」
複雑な気分だった。
少し天然さが混じっている未由に助けを求めるのが間違いだった。孤立無援という意味を改めて痛感した。それに加えて,それでも構わないとかって……
「どうしたの,順也?顔,赤いよ?」
「えっ,あっ……き,気のせいだよ!暑いからかな!」
「はっはっは!順也君,君もまんざらではないようだなぁ!」
「ああもう!行こう,未由!」
「えっ?ちょっ,順也?」
未由の右手を握って,全速力で階段を駆け上がった。あのまま真の話に付き合っていたらどういう展開になるかなんて,今までの経験ですぐに見当がつく。
真は普段は適当な性格をしているけど,本人曰くやるときはやるらしい。顔もそこそこかっこいいからモテる……と思う。
「そのまま愛の逃避行なんてするなよ~順也!」
「するわけないだろ!」
階段の下でもう見えなくなっている真に向かって,僕は叫んだ。
「あ,えっと……順也?」
「なに?」
「あの……手……」
「え……?うわっ,ごめん!!」
「あっ,順也!前っ!」
「えっ!?」
未由の手をずっと握って走っていたことに気づかなかった僕は,とっさに手を離すとそのまま壁に激突した。
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