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「パパ!」
直は進行方向の反対に向かって走り出した。
「待って、直?」
小さな身体はするすると座席の間を潜り抜けホームのあなたに向かって走る。
流れる景色とは逆に。
走る
走る
走る
走る
あなたはホームで佇んだまま。
直は、あなたに向かって
手を、伸ばす。
最後尾
直は、開かない扉にしがみついた。
呼吸を整え直を抱き締めると、直はわたしの肩に頭を擡げ、ぼそりと言った。
「ねぇ、まま?ぱぱ、ないてたね。おなか、すいたのかな?かわいそうだよ…」
泣いてた?
そっか。
ママ
パパの涙、見たことないよ。
ごはん
作ってあげなくちゃ、ね。
離してしまった手と手を
必死に繋げようとするのは
この、小さな手だった。
………………………………………
駅前のお店で、ポストカードを買った。
夜空に輝くひとつ星と、ゆらゆら揺れる三日月みたいな細い舟。
あなたはもう忘れているかなぁ。
―北極星はいつも同じ位地に見えるから、海の民族の間では【帰り星】と呼ばれているんだよ、あの星を目印に家に帰っていたんだ―
ポストカードに想いを託す。
あなたの星に帰れるように。
例え何万光年離れていても
ここから見える星は、ぴったりと寄り添っているのだから。
…fin
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