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少時(しばらく)するとおばさんが何かを持って現われた。
「これ、スイカ切って来たの、良く冷えてるわよ」
「あ・・・ありがとうございます」
随分と待った・・・
降り注ぐ日差しは翳り、景色にはやや黄色い光が混じり始めている。
次第に黄昏時、街角に漂うあの匂いが湿った空気を支配しようとする中、
西瓜を食べ終わった僕はおばさんに質問をした。
「おばさん、賢治くんどうですか?」
蜩(ひぐらし)の蝉時雨はいよいよ盛況を極めようとしている。
おばさんの視線はずっと僕を捕らえている。
しかしおばさんは些細(ちっと)も僕を見ている様子はなく、
僕の背中越しを、
それはまるで、忘れてしまった物事を思い出そうとする人の様に、
ただ凝呼(じっ)と薮睨みを続けているままだった。
僕は振り返り、
おばさんの視線の先を見た。
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