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目の前を火花が散ったような感覚があった。
温かくまぶしい、今は昼だろうか。
茨木は瞼を閉じたままそう思った。
長く眠っていたのか、体が重い。
ゆっくりと瞼を開ければ飛び込んできたのは銀の丸い月。
昼だと思ったのはどうやら気のせいだったようだ。
ゆっくりと体を起こす。節々が軋み微かに呻き声をあげた。
「起きたか」
背後から声がし、振り返る。
反射的に腰に差した剣に手をかけようとしたが見当たらない。
「刀ならここだ」
狼狽え、間合いをとった茨木に、男はそれを掲げてみせた。
すぐさま相手の手にあるものを奪おうと手を伸ばすが、すんでの所で手を引っ込められ指先は虚しく空をきった。
「返せ!!」
怒りが込み上げ、声を張り上げて相手を睨み付ける。
しかし男の顔を見たとたん、音を立てて血の気が引いていった。
「お前、なんで…」
そこにいたのはかつて死闘を繰り返し、仲間を殺し、腕を切り落とした憎き人間の男。
私を本当の鬼にした男。
「渡辺ぇっ!!」
歳を取り、死んだ筈の男が若い頃の姿で現れた。
なんだ、貴様も化け物だったのではないか!鬼である自分と対等に、それ以上にやりあえたのはそういう事だったのか。
怒りと少し
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