A病院の話

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夜の20時を過ぎて周りは暗く、階段は自分の影のせいでとても見ずらい感じでした。 私は手すりに手をかけてゆっくり降り始めました。 後三段くらいになったとき、背中を押される感じがしました。 とっさに手すりにしがみついたのですが着地が悪く右足を軽くひねってしまいました。 手すりにしがみつきながら振り返ってみても誰もいません。 その時昔のことを思い出しました。 初めて自転車に乗るようになって二年くらいたったある日のことでした。 実家の近くで自転車に乗ってこぎだした時、左前に向かって背中をドンと押され自転車ごと川に落ちたことがありました。 見通しがよく白昼だったにもかかわらずその時も誰が押したのかわからず恐かった記憶がありました。 そんな事を思い出しながら「でもどうしようもないよな~」と言いながら帰りました。 ある意味放心状態だったように思います。 数日間は捻挫のおかげでエレベーターを使って行き来していました。 ある日病棟の気になる事を仲のいい上司に話すと、誰にも言わないよう約束して教えてくれました。 今から何十年か前にこの病棟に大量の睡眠薬を飲んで自殺をはかった方が入院してきました。 その方の手首にはリストカット(手首を切って自殺をはかること)の跡が沢山あり、入院後も何度も自殺未遂を繰り返していたこと。 食事に出されたフォークを手首に何度も刺し、自殺しようとしたこと。 そのため、プラスチックのフォークに代えたが、飲み込んだこともあったこと。 そしてある日階段で首を吊っていたこと。 その後改築され、階段で同じことはできないようになっているということを聞き、自分の顔から血の気がひくのを感じました。 階段で捻挫した話をすると、あまり驚いた様子はなく「新人がたまにそういう目にあう」とのことでした。
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