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時刻はまだ午後の六時前だというのに、冬の寒さに凍える太陽は、既にその姿を海原の彼方へと沈ませている。
……最近は特に、日が沈むのが早くなった気がする。
昨夜から降り始めた雪はいつもの街を白く包み込み、積もった新雪の上を歩く感触がどうにもくすぐったい。
不意に吹き込んだ海からの冷たい風に、思わず体を強ばらせる。
風が止むまでやり過ごそうと立ち尽くしていると、コートのポケットから携帯電話が無機質な電子音で着信を知らせてきた。
職場からだ。
マフラーに守られていた口元を外気に晒し、携帯を耳に当てる。
僕が受け応えするより早く、馴染みのある声が携帯から聞こえてくる。
「……はい。……はい。えぇ、分かりました。いえ、大丈夫ですよ」
携帯を切り、今来た道を早足で戻る。
僕がこの街に来て三年。
今の僕を見たら、君は何て言うだろう。
慣れない土地で悪戦苦闘する僕を、君は『頑張ってるね』と誉めてくれるだろうか。
……いや、情けない僕を見て、きっと君は笑うんだろうね。
ふと立ち止まり、白化粧に覆われた街を見渡す。
N県境町。
三年前の夏の日、僕はこのまちで、君と出逢ったんだ。
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