410人が本棚に入れています
本棚に追加
一蹴された。
「嘘じゃねェ……俺ァは俺なりの仁義を果たしたつもりだ」
「本当かしらん?」
「!?……どういうことだ?」
「確かにあなたは仁義を果たしたつもりでしょうけど本当に後悔してないかしら?」
再びの問いに男は戸惑う。
死に際だというのに、自問自答が波のように男に襲いかかってくる。
いや逆に死に際だからなのだろう。
―――確かに。
男は振り返る。
区切りをつけた心のどこかでは未だに仁義を果たそうとする自分がいることに、男は気づかされる。
「やはりどこか引っかかるものがあるのね?」
心を見透かすように筋骨隆々の男は言う。
「だからそんなあなたに好機をあげようというのよん♪」
「……何が狙いだ?」
「何がかしら」
今度は逆に男が問う。
「そこまでする意義は?」
「特に無いわん♪」
「特に無ェ……だと?」
軽い調子で漢女は答えた。
「しいて言うならそうねぇ……、『仁義』かしらね?」
「ハッ……面白ェ。わかった……仁義をかけられ、断っててめえの心残りをこれ以上増やすわけにゃあ行かねェしな……のってやるよお前の提案……!」
「そうこなくっちゃ♪」
「んでどうしやがるつもりだ?」
「簡単よん。あなたには『外史』に行ってもらうわん」
「外史……?」
「そう、外史。まあ詳しいことは行けばわかるわ」
そう言ってチョウ蝉は右手を差し出した。
「掴まって。あなたを外史にご招待するわん♪」
男は右手を掴んだところで思い出したかのように言った。
「そうだ……、名前、名乗ってなかったな」
「知ってるわよん、あなたの名前ぐらいは」
「まァそう言わず聞けってんだ……」
男は力を振り絞って名を名乗った。
「俺の名は幡随院長兵衛!喧嘩と仁義を愛す江戸の町奴『幡随院組』の頭領だ!!」
「うっふん!最後までかっこいいわねん!では招待するわ、外史へ……」
そして、死に際の男の体が光に包まれ、幡随院長兵衛は外史の扉を開くことになる。
最初のコメントを投稿しよう!