第壱席 幡随院、白馬長史に拾われるのこと

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「急げ子龍!」 「そう慌てるな、伯珪殿よ」 二人の少女がどこまでも続くような地平線で馬を走らせていた。 「これが慌てないでいられるか!」 真っ白な馬を走らせている伯珪と呼ばれたその少女は赤に近い桃色の短めの髪を後ろで束ね、桃の服を基盤に白の鎧を着けていた。 「全く……、視察のついでだからと言ってたのにこのはしゃぐ様は……」 対して肩をすくめて呆れ顔の子龍と呼ばれたその少女は全身真っ白な、例えるならば蝶のような、そんな服を纏っていた。 幽州琢郡五台山が麓。 そこに天より己が信念を果たさんとす仁義を貴ぶ男が舞い降りる。 その男がこの中華に平和をもたらすであろう。 そんな噂が中華全土でまことしやかに囁かれていた。 誰が言い出したかもわからぬような噂であったため、精々話の種にしかならなかったが、これを誠に捉えたのがその幽州を統べる太守である。 「本当に急ぐぞ子龍!噂によればその男が来るのは今日らしいからな!」 はしゃぐ伯珪と呼ばれた少女の後ろで子龍と呼ばれた少女がため息をついた。 「全く、太守ともあろう方が出所も判らぬ噂に惑わされるとは……。まぁそんな噂をバカ真面目に信じる所が伯珪殿の良い所と受け取るべきか?」 「おい子龍、今なにかすごく失礼な事言わなかったか?」 若干の怒気を混ぜながら伯珪は子龍に聞いた。 「いえ?伯珪殿の空耳では?」 惚けた様子で答える子龍。 「まぁいい。急ぐぞ!」 「はいはい、共に参りますぞ、伯珪殿」 中華に太平をもたらすと言われる人物が現れる五台山へ、二人の少女は大地を駆ける。
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