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蜂「それで…困り果てた俺は三年前に上京した兄を届いた年賀状を頼りに訪ねたんですけど……」
来る途中で借金取りに捕まりボコボコにされた挙げ句、なんとか撒いたものの、なけなしの金はこちらに着いた途端スリにひったくられ、やっとの思いで辿り着いたこの部屋の前で力尽きてしまったらしい。
(………なんとも不幸としか言いようがない)
それに僕の予想が当たっているなら……。
「蜂星くん…一つ聞きたいんだけど、君のお兄さんの住所ってもしかして……」
蜂「………はい、この部屋です」
(……やっぱりか)
入居の際、お喋り好きな大家さんからこの部屋の前の住人は何かトラブルを起こしたとかで、慌てて出て行ったとは聞いていたけれど…。
(まさかそれが蜂星くんのお兄さんだったとは……)
恐らく両親の借金が原因だろう。
ここは厳しいセキュリティーは勿論、サロンや色んな設備や施設の整っている、いわゆる高級マンションだ。
家賃だってそれなりに高い。
ここに住んでいたという時点で、お兄さんがそれを払える程度には地位や立場があり、稼いでいたのが簡単に想像出来る。
だからこそ、逃げた両親のかわりに借金を払わせる為に自分の元へ来る借金取りを恐れて逃げたんじゃないだろうか。
いくら厳しいセキュリティーがあるとは言え、生きていくにはずっと家に引きこもるなんてこと出来ないし、もし借金取りに追われてると世間に知れたら立場や地位に傷が付きかねないから。
蜂「俺…これからどうしたらいいのか……」
蜂星くんはそう呟くと哀しげな目線を下に落として俯いてしまった。
彼の顔に暗い影が指す。
(………仕方ないか)
ふう。とため息を吐くと、蜂星くんの体はそれにすらビクリと敏感に反応する。
体躯が凄く大きな子がまるで子犬のように震えてるその姿はなんだか可笑しくて、同時に可愛く思えてしまった。
こうなれば僕がこの可哀想な子に言う言葉は一つしか存在しない。
「蜂星くん」
蜂「は、はい!」
大袈裟に体を震わせて勢い良く上がる頭が僕の笑いを誘う。
「ウチの子に……なる?」
笑い混じりのその言葉は、どうやら怯えていた子供の思考をぶっ飛ばすには十分すぎるほど威力があったようだ。
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