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「聞いてみただけです。」
由莉は笑いながらそう言った。
「エッセイの件は了解しました。詳しいことはメールしてください。それじゃ。」
電話をぷつんと切る。
機械を通して聞く一條の声は、いつもよりさらに無機質で、感情など持たないかのようだ。
「しかたないか。」
自分にいいきかせるように呟き、由莉はキーボードに指を置いた。
金曜日の午後は長い。
午前中で講義が終わった由莉は、食堂の片隅でノートパソコンを開いた。
今日が締め切りのエッセイはまだ半分しか書き上がっていない。
「やっぱり行けないよなぁ。」
淡い望みをかけて、由莉は園田の誘いをまだ断っていなかった。
しかしどう考えても行けそうにない。
携帯電話を開き、断りのメールを打ちはじめたとき、背中を突かれた。
反射的にノートパソコンを閉じる。
「ごめん、びっくりさせた?」
園田が慌てて謝る。
「園田君……。」
「早川っていっつもこの席にいるよね。」
「そうかな?あ、私今園田君にメールをしようと思って。」
「店の場所分からなかった?」
からりと笑う園田を前にすると、申し訳なさで由莉はつい目を伏せてしまう。
「せっかく誘ってもらったんだけど、行けなくなっちゃったんだ。」
「え……。」
「ごめんね。」
園田は残念そうに瞬きする。
しかしすぐに笑顔で言った。
「じゃあ次は絶対来てよ。みんな早川と仲良くなりたがってるし。」
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