第一章

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「聞いてみただけです。」 由莉は笑いながらそう言った。 「エッセイの件は了解しました。詳しいことはメールしてください。それじゃ。」 電話をぷつんと切る。 機械を通して聞く一條の声は、いつもよりさらに無機質で、感情など持たないかのようだ。 「しかたないか。」 自分にいいきかせるように呟き、由莉はキーボードに指を置いた。 金曜日の午後は長い。 午前中で講義が終わった由莉は、食堂の片隅でノートパソコンを開いた。 今日が締め切りのエッセイはまだ半分しか書き上がっていない。 「やっぱり行けないよなぁ。」 淡い望みをかけて、由莉は園田の誘いをまだ断っていなかった。 しかしどう考えても行けそうにない。 携帯電話を開き、断りのメールを打ちはじめたとき、背中を突かれた。 反射的にノートパソコンを閉じる。 「ごめん、びっくりさせた?」 園田が慌てて謝る。 「園田君……。」 「早川っていっつもこの席にいるよね。」 「そうかな?あ、私今園田君にメールをしようと思って。」 「店の場所分からなかった?」 からりと笑う園田を前にすると、申し訳なさで由莉はつい目を伏せてしまう。 「せっかく誘ってもらったんだけど、行けなくなっちゃったんだ。」 「え……。」 「ごめんね。」 園田は残念そうに瞬きする。 しかしすぐに笑顔で言った。 「じゃあ次は絶対来てよ。みんな早川と仲良くなりたがってるし。」
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