第一章

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パソコン画面の右下で時間がどんどん過ぎていく。 これは陰険な担当じゃない……これは陰険な…… 「陰険以外のなにものでもないだろ!!」 由莉は車が揺れるほどの大声で叫ぶ。 一條は電話が終わったらしく、車に寄り掛かり、面倒臭そうに由莉の様子を見ている。 当然、由莉の叫び声は一條に聞こえていたが、あえてなにも言わなかった。 「出せー!出せー!」 がたがたと車を揺らす由莉に、一條はドアを開けてにこやかに言った。 「書けー、書けー。」 由莉の口調を真似て皮肉っぽく言う一條を思い切りにらみつけ、由莉はキーボードを人差し指で叩いた。 「誰か気になる人でもいないんですか?」 一條が尋ねる。 由莉の脳裏に園田が浮かんだが、一條の言った「気になる」とは異質な「気になる」のような気がして、ため息をついた。 「あーあ、なんで一條さんは一條さんなんですか?整形しましょうよ、性格を。」 「先生、鼻フックしますよ?」 由莉は慌てて鼻を守った。 気になる人……。 そう聞かれても全く思いつかない。 ある意味由樹は気になる。 早くニートを卒業させたいものだ。 「一條さんは気になる人いますか?」 「先生ですかね。」 「は?」 思いがけない返答に、由莉は開いた口がふさがらない。 「寝ても覚めても先生のことを考えています 早く原稿上げろ、って。」 いやに爽やかな笑顔だった。
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