第一章

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由莉は小走りで店に向かう。 振り返ると、一條が笑顔で車の窓ガラスを指差していた。 ばれてないと思っていたが、汚したことはあっさりばれていたようだ。 つくづく侮れない。 少し緊張しながら店のドアをくぐると、偶然園田と会った。 「え!?早川?」 「ごめん、一回断っておきながら。」 「いや、そんなこと全然構わないよ!席こっちなんだ。」 園田に手を引かれ、店の奥に案内される。 なるほど、これがいわゆる居酒屋か。 いろいろな食べ物の臭いが混ざって、薄暗くて……ああ、個室もあるんだ。 これは小説に使えるな……。 辺りをキョロキョロ見回す由莉に、園田は人懐っこい笑顔で尋ねた。 「こういうとこは初めて?」 「うん。未成年だからお酒も飲まないし、来る機会なかったんだ。」 園田が目を丸くする。 「いまどき珍しいね。未成年ほど見栄張って飲みたがるものなのに。」 「園田君も?」 園田は肩をすくめて笑った。
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