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翌朝、早川家のチャイムが鳴る。
午前9時ちょうどになったチャイムに、由莉は目を覚ました。
部屋のカーテンをほんのすこし開けて外を覗くと、いつも通りスーツをかっちりと着こなした一條の姿が見えた。
由莉はすぐさまカーテンを閉める。
見なかったことにしよう。
布団を頭からかぶる。
「由莉~、一條さんがいらしたわよ~。」
部屋の外からのんびりした声がした。
由莉と由樹の母親、由香だ。
「パソコンを持ってきてくれたんですって~。」
そういえば昨日原稿を書き上げ、パソコンごと一條さんに渡したんだっけ。
もぞもぞと布団から這い出し服を着替えた由莉は、心底けだるそうに部屋のドアを開けた。
欠伸を噛み殺しながら一階のリビングに降りていくと、一條が爽やかな笑顔で由香と話していた。
一條は由莉に気が付くと、立ち上がってパソコンを差し出した。
「おはようございます、早乙女先生。パソコンを返しにきました。おかげさまでエッセイは昨日入稿できましたよ。」
「それはよかったです。」
「それでですね、連載のほうなんですが、ちょっとお話したいことがありまして。」
「……分かりました。私の部屋にどうぞ。」
由香に丁寧にお辞儀をし、一條は由莉のあとについていく。
6畳半に本棚やベッド、机が詰め込まれた由莉の部屋は狭く、一條はベッドに腰掛けた。
「せめて寝癖くらい直しましょうよ。」
由莉の四方八方にはねる髪をぐしゃぐしゃと撫でる一條の手を払いのけ、由莉は鼻で笑う。
「一條さんだって寝癖そのままじゃないですか。」
「これは天然パーマですよ。見れば分かるでしょう、恋愛作家の女子大生さん?」
今度は一條が鼻で笑った。
引き攣った作り笑いを浮かべながら由莉は尋ねる。
「連載のほうの話ってなんですか?」
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