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「本当は『お気になさらず』なんて思ってないですよね。」
「ええ、微塵も。」
この、上から見下ろすような皮肉っぽい笑顔のほうが一條さんらしいな。
由莉は億劫そうに立ち上がり、寝癖のついた髪を手ぐしでとかした。
鏡に映る自分は、地味でぱっとしない19歳の女子大生だ。
「恋愛作家」という、本当の自分とは程遠い仕事に、いよいよ無理がきたのかもしれない。
おとぎ話のようなロマンチックな恋愛小説しか書けなければ、今はもてはやされても、長続きはするまい。
由莉は考えれば考えるほど毛糸玉のように絡まる思考を無理矢理遮断した。
「とにかく少し考えてみます。」
一條はなにも言わなかった。
ただ黙って頷き、部屋から出ていった。
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