第二章

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「うー……あー……お…?いや……んー…。」 大学構内の人気のない広場のベンチに座り、由莉はうんうん唸っていた。 なにか掴めそうで掴めないもどかしい感覚を噛み締めながら、建物によって四角く切り取られた空を見上げる。 本当の空はここにはない。 「早川?」 由莉が振り返ると、園田が不思議そうな顔で立っていた。 「園田君……。」 「何してるの?」 「いやちょっと……暇つぶしを。」 「はははっ、そっか。」 園田は由莉の隣に腰掛ける。 「園田君は?」 「俺?図書館に本を返しに行く途中。ほら、この広場突っ切るのが1番近いでしょ?」 「ああ、なるほど。本好きなの?」 「うん。こう見えてなんでも読むよ。恋愛小説も読むし。」 「恋愛小説?」 園田は恥ずかしそうに鼻の頭をかきながら頷く。 「ガラじゃないよね。自分でもそう思うもん。でも好きな作家がいてさ。」 「なんていう作家なの?」 「早乙女楪って……結構有名だし知ってる?」 胸がどきどきする。 目の前に自分の小説を好きだと言ってくれる人がいることが、こんなに嬉しいなんて。 由莉は園田に赤面したとこを見られないように少し俯きがちに頷いた。 「うん、知ってる。」 「早乙女先生の小説いいよね!」 はじけんばかりの園田の笑顔に由莉は肩を竦めた。 「実はあんまり読んだことないんだ。」 嘘は言っていない。 自分の小説を読むのはなんだか気恥ずかしくて苦手だ。
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