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「読んでみなって!すごくいいから!」
身を乗り出してそう言った園田は、はっとして照れ笑いをした。
「ごめん、つい。初めてファンになった小説家だから熱が入っちゃって。」
「ううん、私もその気持ちわかる。すごく好きな作家さんがいるんだ。とっても優しくて温かい文章を書く人なの。作品数はたった二つだけど、私にとっては1番の作家さん。」
「なんていう人?探して読んでみるよ。」
「速川由紀夫。」
「初めて聞いたなぁ。」
「18年前に亡くなったの。だからきっと若い人はあまり知らないと思う。」
少し遠い目をして由莉は笑う。
そんな由莉を見て、園田はためらいがちに尋ねた。
「早川、何か悩みでもあるの?俺何でも聞くよ?」
さらさらと柔らかな園田の前髪が風に揺れる。
由莉は努めて明るく笑いながら首を横に振った。
「ううん、大丈夫。園田君って、本当にいい人だね。」
「そんなことないって。っあ、やばっ!」
腕時計に目をやり、園田は慌てて立ち上がる。
「次授業あったのすっかり忘れてた。俺もう行くけどなにかあったらいつでも相談乗るからさ。」
「うん、ありがとう。」
「じゃあまた。」
「うん、また。」
ぱたぱたと軽やかな足音を残して園田は走り去る。
穏やかな午後の日差しが、由莉の足元に影を作った。
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