第二章

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一方的に電話が切れる。 由莉は携帯電話をポケットにしまい、顔をしかめた。 いったいなんだろう。 一條は鼻につくほど礼儀をわきまえた人間だった。 その一條が用件も言わずに電話を切るとは、よほど急いでいたのだろうか。 考えをめぐらせながら由莉が大学の正門に着くと同時に一條の車が横付けされる。 少々面食らった由莉などおかまいなしに、一條は勢いよく車から飛び出し、由莉に駆け寄る。 「早お……とにかく車に乗ってください。」 由莉のペンネームを言いかけ、一條は慌てて言葉をつなぐ。 周りの学生の好奇の目から逃げるように、由莉は一條の車の助手席に乗り込んだ。 一條は早々に車を発進させると、努めて冷静な声で言った。 「『金魚鉢の恋』が大木賞の候補にあがりました。」 「大木賞!?」 由莉も思わず身を乗り出す。 大木賞は筆をとる者は誰しも一度憧れる大きな賞だ。 その受賞候補に若干19歳の自分の名前があがってる聞き、由莉は驚きを隠せなかった。 口を手で覆い、喜びにまかせて叫ばないようこらえる由莉を横目に見ながら、一條も嬉しそうに笑顔を見せる。 「まだ候補に挙がっただけですから、結果が出るまではわかりませんよ。」 いさめるような一條の言葉は由莉の耳には入ってなかった。 「信じられない……。私が候補になるなんて。」 「編集部一同騒然となってますよ。これから行って、結果を待ちましょう。」 由莉は黙ってうなずいた。 車の窓の外を流れていく景色までもが祝福してくれるようで、胸の奥がざわめく。
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