第二章

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「ちょっと、三村さん!勘弁してくださいよ……。」 「だって大木賞よ?そもそもは純文学に対する賞じゃないの。あの女の小説はただセックス描写が売りなだけなことぐらい、この業界の人間はみんなわかってることよ。」 田村のネクタイをはなし、三村は舌打ちする。 「それが……。」 田村はせき込みながら由莉にちらっと視線を送った。 なにか言いにくいことでもあるのか、もごもごと口ごもっている。 「田村さん、遠慮せず言ってください。」 由莉が促すと、田村はしぶしぶ言った。 「噂だと、審査員と寝たとか……それで、有利に選考が進んだって……。」 「ああ、前もあったわね。」 三村がつぶやく。 「それで、その噂の信憑性は?」 一條が沈黙を破る。 「かなり高いです。というか、もうどこの出版社も知ってすと思いますよ。」 「そう……編集長。」 「な、なんだ?」 一條は満面の笑みを浮かべて言った。 「ちょっと風間彩を闇討ちしてきます。 部屋の中の空気が一気に下がった。 「いやいやいや!一條先輩なにさわやかな顔で物騒なこと言ってるんすか!?」 「あんた目が笑ってないから怖いのよ!やるなら絶対足がつかないようにやるのよ。」 「ちょっと、三村さん!一條さんもなに言ってるんですか?」 田村と由莉が慌てて止める。 「大丈夫ですよ、先生。うまくやりますから。」 「そういう問題じゃないです!大人げないですよ、一條さん。」 「当たり前でしょう?」 「え?」 「僕は先生のそばでずっと先生の作品を見てきました。客観的に見ても、今回の大木賞には早乙女先生の作品がふさわしかったです。それを作品そのもの以外で勝負しようとするやつ、許せるわけないでしょう。」 由莉は思わずふきだした。 「なんです?」 一條は笑いをこらえようと必死な由莉を見下ろして言う。 由莉は首をよこに振りながら答えた。 「いえ、なんでもないんです。」 「なんでもない人間がこの状況下でへらへら笑うわけないでしょう。なんですか?」 「本当に何でもないんですって。」 「言わないと締切早めますけど?」 「すいません、今すぐ言わせていただきます。」 即答してから、由莉は言葉につまった。
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