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「ちょっと、三村さん!勘弁してくださいよ……。」
「だって大木賞よ?そもそもは純文学に対する賞じゃないの。あの女の小説はただセックス描写が売りなだけなことぐらい、この業界の人間はみんなわかってることよ。」
田村のネクタイをはなし、三村は舌打ちする。
「それが……。」
田村はせき込みながら由莉にちらっと視線を送った。
なにか言いにくいことでもあるのか、もごもごと口ごもっている。
「田村さん、遠慮せず言ってください。」
由莉が促すと、田村はしぶしぶ言った。
「噂だと、審査員と寝たとか……それで、有利に選考が進んだって……。」
「ああ、前もあったわね。」
三村がつぶやく。
「それで、その噂の信憑性は?」
一條が沈黙を破る。
「かなり高いです。というか、もうどこの出版社も知ってすと思いますよ。」
「そう……編集長。」
「な、なんだ?」
一條は満面の笑みを浮かべて言った。
「ちょっと風間彩を闇討ちしてきます。
部屋の中の空気が一気に下がった。
「いやいやいや!一條先輩なにさわやかな顔で物騒なこと言ってるんすか!?」
「あんた目が笑ってないから怖いのよ!やるなら絶対足がつかないようにやるのよ。」
「ちょっと、三村さん!一條さんもなに言ってるんですか?」
田村と由莉が慌てて止める。
「大丈夫ですよ、先生。うまくやりますから。」
「そういう問題じゃないです!大人げないですよ、一條さん。」
「当たり前でしょう?」
「え?」
「僕は先生のそばでずっと先生の作品を見てきました。客観的に見ても、今回の大木賞には早乙女先生の作品がふさわしかったです。それを作品そのもの以外で勝負しようとするやつ、許せるわけないでしょう。」
由莉は思わずふきだした。
「なんです?」
一條は笑いをこらえようと必死な由莉を見下ろして言う。
由莉は首をよこに振りながら答えた。
「いえ、なんでもないんです。」
「なんでもない人間がこの状況下でへらへら笑うわけないでしょう。なんですか?」
「本当に何でもないんですって。」
「言わないと締切早めますけど?」
「すいません、今すぐ言わせていただきます。」
即答してから、由莉は言葉につまった。
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