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「お茶くらい飲んでいきます?」
由莉は家の前で一條に尋ねた。
一條は首を横に降る。
「これから編集部に戻って仕事をしなくてはいけないので。また次の機会に。」
「そうですか。それじゃお疲れ様でした。」
由莉が家の中に入っていくのを見届けた一條は腕時計に視線を落とした。
先程の様子から察するに、十中八九由莉は原稿に手をつけてない。
そもそも大学生活と作家生活の両立はあまりに厳しいはずだ。
それでも由莉が書き続けるのには、二つの理由があった。
「戻るか。」
溜息まじりに呟き、一條は長い影を伸ばしながら帰っていく。
由莉は帰宅してすぐにノートパソコンを立ち上げた。
今抱えている仕事は月刊誌の連載小説と、毎月ファッション誌に掲載しているエッセイだ。
なにか打ち込もうと思い、キーボードに指をおいたが、なにも思いつかない。
そういえば、課題のレポートがあったっけ…。
かばんから少し萎れたノートを取り出し開く。
板書の写しに混ざって、プロットが乱雑に書き込まれたノートだ。
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