0人が本棚に入れています
本棚に追加
冬の終わりだった。
三月間近。二月の末。
吐く息はまだ白く、マンション前の自販機に飲み物を買いに行くだけでもコートが必要なくらいの寒い夜。
私の家のマンションはかなり変わった作りをしていて、エントランスホールが二階にあった。エレベーターがあるのも二階からで……。
つまりは家に帰るためにはまずまるまる一階分階段を上らなければならない。
体育のあった日の帰りなどは、重い足を引きずり這いずるようにエントランスへ向かっていた。
それは外出する時もおんなじで……。
深夜。急に炭酸飲料が飲みたくなった私は、マンションの前にある自販機に買いに行くことにした。
エレベーターを二階で降り、一階までの階段を下りようとした時。
ふと、いつもと違う様子に気がついた。
霧が立ち込めている。
結構な高さの階段の上からは、いつも五十メートル以上先まで見渡すことが出来た。
しかし今見えるのはその半分くらいだろう。
真っ白なもやに白い息が吸い込まれていく。
何だか変だ……。
辺りには人っ子一人いない。
深夜なのだから当たり前……ではない。田舎の自販機前はいつも暴走行為に勤しむ青年達の溜まり場だった。
それが今日に限って誰もいない。
最初のコメントを投稿しよう!