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震えていた。
自分の手も、足も、震えていた。
森が立ち止まる。
ぐいっと自分の目元を拭った。勝手に涙が溢れてくる。
「ごめん、違う。違うから」
笑おうとしながら言い訳した。森の顔が見れない。
「わたしは、森のこと、」
「いいって」
はあ、とあきれ返った声がした。ドクンと心臓が跳ねる。
最悪。なにこれ。自分、最悪。
「あと少しだったんだろうけどなぁ」
ぼんやりと森が似合わないくだけた口調で呟いた。
少し雑な手つきで頬を森の袖口が拭いて行く。
「言っとくけど、行けよって言わないから」
「……ッ」
「俺はお前に、行くなって言うから」
ぎゅっと、森がわたしの手を握る。
優しい、振り払える程度の力で。
「でも、お前が選べよ」
見なきゃ、って思った。森のこの、言葉を、受け止めなきゃって思って、顔を上げた。
涙が吹き出る。涙に吹き出るなんて表現があるのかどうかは知らないけど、本当にそんな感じで、出てくる。
「ご、ごめ……」
最低。森にこんなことさせて。
森を選ぶべきなんだと、思う。
好きになりかけているのは本当だし、助けてもらってるし。森は大事にしてくれるだろう。あのサルみたいに鈍感じゃないし気が利くし、わたしが隠そうとしている感情の機微を、全部見透かしたように手を差し出してくれる。
でも。
――俺、竹中のこと好きだから
わたしも好きだった。
――竹中が、森のこと好きでも好きだから
わたしだって、あんたが彼女のこと好きでも好きだった。逃げようと、したけど。
――だから、明日からは無視とかすんなよな!
無視してたんじゃなくて。逃げてたんだ。
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