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ぐしゃぐしゃと、つぶれたトマトのように胸が痛む。足もとから力が地面に流れ出るような感覚。
そこにいたのは俺だったのに。
俺の、位置だったのに。
そんな軽々しく触るなよ。
そんな、楽しそうにムキになるなよ。
あっちがわに居たとき、「いちゃつくな」「仲いいね」とちゃかされて、何言ってんだこいつら。って思ってたけど。
確かに、客観的に見ると、あれは……。
「竹中!」
名前を、勝手に呼んでいた。
そんな、資格はないかもしれないけど。
走りよる。枯れたと思った力がわいてくる。手遅れでもいいから。
言おう。
びっくりした顔で、竹中が振り返る。森が、まるで竹中をかばうみたいに前に出る。
「どけよ」
「言ったろ。譲る気ないからって」
ああ、と思った。なんだよ俺、星野にも森にも見透かされてたんだ?
星野は、俺の近くにいたからわかるけど。なんで森に見透かされなきゃいけねーんだよ。
そういえばそんなこと言われたよ。
譲るってなにがだよ。俺お前となにか勝負してたっけ。とか。アホ、俺。
「竹中、俺は」
「花。行くぞ」
「え……」
花、って。
なんだよそれ。いつから名前で呼ぶようになったんだよ。
――た、拓海っ
星野の声がフラッシュバックする。あのときは何も思わなかった。かわいい、って思っただけで。名前で呼ぶことなんて、大したことじゃないんじゃないかって。でも。
森が竹中の手を引いて俺に背を向けた。
言え。森が聞いてるとか、そんなのどうだっていい。
手段を選んで状況を選んで、竹中に伝わらなかったらなんの意味もない。
「竹中。俺、竹中のこと好きだから」
ちょうど通りかかった人が視線を寄越す。
どうだっていい。通じれば、どうだっていい。
竹中は振り返りもせず、森と肩を並べ手を繋いでどんどん離れていく。やっぱ、だめか。そう思ったら言葉が止まらなくなった。
「竹中が、森のこと好きでも好きだから!」
あれだけ認められなくて、ずっと見てみぬフリをして、ずっと、言わなかった言葉だった。
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