10コクハク

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 ぐしゃぐしゃと、つぶれたトマトのように胸が痛む。足もとから力が地面に流れ出るような感覚。  そこにいたのは俺だったのに。  俺の、位置だったのに。  そんな軽々しく触るなよ。  そんな、楽しそうにムキになるなよ。  あっちがわに居たとき、「いちゃつくな」「仲いいね」とちゃかされて、何言ってんだこいつら。って思ってたけど。  確かに、客観的に見ると、あれは……。 「竹中!」  名前を、勝手に呼んでいた。  そんな、資格はないかもしれないけど。  走りよる。枯れたと思った力がわいてくる。手遅れでもいいから。  言おう。  びっくりした顔で、竹中が振り返る。森が、まるで竹中をかばうみたいに前に出る。 「どけよ」 「言ったろ。譲る気ないからって」  ああ、と思った。なんだよ俺、星野にも森にも見透かされてたんだ?  星野は、俺の近くにいたからわかるけど。なんで森に見透かされなきゃいけねーんだよ。  そういえばそんなこと言われたよ。  譲るってなにがだよ。俺お前となにか勝負してたっけ。とか。アホ、俺。 「竹中、俺は」 「花。行くぞ」 「え……」  花、って。  なんだよそれ。いつから名前で呼ぶようになったんだよ。 ――た、拓海っ  星野の声がフラッシュバックする。あのときは何も思わなかった。かわいい、って思っただけで。名前で呼ぶことなんて、大したことじゃないんじゃないかって。でも。  森が竹中の手を引いて俺に背を向けた。  言え。森が聞いてるとか、そんなのどうだっていい。  手段を選んで状況を選んで、竹中に伝わらなかったらなんの意味もない。 「竹中。俺、竹中のこと好きだから」  ちょうど通りかかった人が視線を寄越す。  どうだっていい。通じれば、どうだっていい。  竹中は振り返りもせず、森と肩を並べ手を繋いでどんどん離れていく。やっぱ、だめか。そう思ったら言葉が止まらなくなった。 「竹中が、森のこと好きでも好きだから!」  あれだけ認められなくて、ずっと見てみぬフリをして、ずっと、言わなかった言葉だった。
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