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二度目に吉野拓海と会ったのは、合格発表の日だった。
「あれ、迷ってた子!」
と吉野拓海がわたしを指差していった。びっくりしたわたし。男の子が苦手なことをしっている由紀が、訝しげに吉野拓海を睨んだ。
「知り合い?」
吉野拓海の友達も、わたしのことを好奇の目で見ていた。こわい、と思った。
「受験の日に迷ってたの、助けたんだよ。な?」
いっぱいいっぱいになって頷くと、由紀が「ふぅん」となにか言いたげな物言いをした。
「受かった?」
吉野拓海は、笑うと目が細くなる。口角ってそんなにあがるものなのかな、と思うくらいあげて、元々大きな目が半分くらいになる、人懐こい笑みだった。
「うん、うかったよ」
そこで、わたしはこのとき吉野拓海の名前を知らないことに気付いた。
「よかったじゃん! 俺もうかったよー」
「おめでとう」
「じゃあ、春からいっしょだな!」
そう笑った太陽が、冬の太陽みたいにまぶしくて、わたしは目を細めた。
「行くぞ、吉野」
隣の男子が声をかけて「おうよ」と元気良く吉野拓海が返事をした。そこでわたしは彼の苗字を知ることになったのだ。
「美桜子、だいじょうぶ?」
由紀が声をかけた。わたしは頷いて「平気。あの人、いいひとだよ」と言った。
由紀は心配そうに、特有のえくぼを浮かべて苦笑した。不思議と、あの人はこわくない、と思った。
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