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だって、話したらきっとすぐ気持ちが膨らむから。
無視したんじゃなくて、自分の感情を、抑えられるように仕向けたの。
本当は、何もなかったように、前みたいにぎゃーぎゃー騒ぎたかったんだけど。
「ごめん、森。わたし、行かなきゃ」
ぱっと、森の手がわたしの手を離す。
罪悪感がずっしりと胸にのしかかる。
でも、それを見透かしたように、森はガサッとわたしに大きな袋を押し付けた。
反射的に受け取ると、森は肩を掴んでくるっとわたしを方向転換させると、前によろめく程度の力で背中を押した。
「頑張れ」
その言葉を聞いて、また泣きそうになった。こらえて、振り返らずに走った。
「あー、もうっ。痛いし!」
鞄がバシバシあたって、ちょうど道路だか車だかにぶつかって痛かった腰が痛みを訴える。
追いつけるかと思っていたけど、全くおいつけない。しかも、森がくれたぬいぐるみが結構がさばって走りづらい。
これくらいは森のささやかないやがらせだとしても全然許さなきゃいけないと思うって言うか、そうであってほしいというか。
むしろもうちょっといやがらせしてくれたほうが気が晴れるというか……。
はー。いや、晴らしちゃだめだ。
っつーかわたし吉野の家なんか知らないんですけど!
「あれ? 竹中じゃん。さっき吉野が探してたよ」
「さ、崎下!」
吉野とよく一緒に居る崎下だった。吉野は基本的にいろんな奴と一緒にいるけど、特に崎下とは仲が良かった。
「吉野の家教えて!」
「え? なんで?」
「いいから!」
崎下のツレが不思議そうな顔をしてわたしを見ているけど無視した。
「あー、えっと、こっからだったらバス使ったほうが速いと思うけど」
「それでいい!」
「じゃあ、そこの角まがったとこにあるバス停使って……」
降りるバス停と、吉野の家の特徴を聞いて、わたしは「わかったありがとう!」と言ってバス停に向かった。
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