99人が本棚に入れています
本棚に追加
「あのさ、」
吉野が口を拭くような姿勢で隠しながら、目線を逸らす。
「な、なに?」
「さわってもいい?」
「え……っ」
「すっげー、ぎゅってしたい」
「!」
カッ、と顔が一気に熱くなる。森のときに赤くなってたのはなんだったんだってくらい、顔から火が出る思いだった。
「い、い……け、ど」
一文字ずつ言うのがやっとだった。
恥ずかしすぎて目線を逸らす。
でも、次の瞬間には吉野の腕がわたしの背中に回っていて、まるでぬいぐるみを抱きしめるような感じに、抱きしめるっていうそれっぽい表現なんか全然似合わない。
久しぶりにあった外国人同士がするようなハグだった。
「あー、もうすげー嬉しい」
耳に近い位置で、吉野が試合に勝ったときのような声を出す。きゅうっと、胸のあたりが
少し湿ったワイシャツ。どんだけ全力で走ったんだよ。おかげで家まで来ちゃったっつーの。
泣きそうだった。こらえるのに苦労した。恐る恐る吉野の背中に手を回すと、さらにぎゅうっとされた。
うわあ。今、わたし、吉野に抱きしめられてる。
吉野が、手の届くところにいる。
吉野が、わたしを見ている。
最初のコメントを投稿しよう!