12キス

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 ふと、吉野が隣を歩いていることが、実は夢なんじゃないかって思った。  森がとってくれたぬいぐるみ入りの袋を背負い、目を凝らしながら空を睨んでいる吉野の横顔。  あったかくて、ふわふわした気持ちがこみ上げてくる。  鞄を背負いなおして、ちょっと迷って、吉野の薬指と小指のあたりをつまむように触る。  吉野がぴくっと反応して、わたしを見た。  わたしは吉野を見ないで、地面を見つめながら手を広げた吉野の指に自分の指を絡ませるようにして手を繋いだ。  今、触れているのは本物の吉野拓海で、わたしの手で、夢なんかじゃない。  思わず口角が緩む。 「竹中」  名前を呼ばれて顔をあげると、吉野が立ち止まって少しの力で繋いだ手を引き寄せた。  顔が近付いてくる。まぶたが勝手に下りて、唇に触れていくキスの感触。  ぱっと離れた吉野は少し照れくさそうにはにかんだ。 「超好き」  至近距離で見る吉野の顔。知っているようで知らなかったような表情に、喉の奥から何かがこみあげた。 「はは。絶対わたしのほうが好きだし」  笑いながら言うと、もう一度握った手に力が入った。  後から思い出すといつだれが見てるかわかんないような路上でそんなことすんなよって感じだけど。  唇が触れた。  離した後、今度は少し気まずそうに照れた吉野が、ぎゅっと手を引いて歩き出す。  少し速めに歩く吉野。  なんだよ、と思ったけど、耳がサルみたいに赤いのが見えて、まぁいっかと思った。 「吉野ー」  ニヤニヤと自分の口角があがるのが押さえ切れない。 「なんだよ」  それを察したのか、吉野は不本意そうに少し投げやりな返事を寄越す。 「耳真っ赤」  くはっ、と笑ってしまった。  吉野が繋いでいた手を離して耳を押さえる。 「ばっ! おま、見んなよ!」 「あはは」  からかうように笑うと、吉野は不本意そうに眉を顰めたけど、何も言わずに離れた手を繋ぎなおす。  冬の始まりを予感させる風が吹きぬけたのに、ちっとも寒くなかった。  
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