1カタオモイ

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   「おっ、なにそれうまそー。もーらい」 「ぎゃっ、ちょっと!」  朝コンビニで買ったシュークリームが、吉野の口の中に消えていった。 「バカ吉野ー! 今日の楽しみだったのにぃ!」  吉野特有の子供みたいな無邪気な笑みをわたしに向けて、吉野は仲間たちと教室を出て行った。 「ほんと、仲良しだよね、吉野と」  机をくっつけてお弁当を食べていた亜樹が茶化すようにそう言って、笑った。 「毎日とられてて困ってるんだから」  あたしのお弁当のおかず、もしくはデザートをひょいっととっていく常習犯の吉野拓海。  いつも3時間目の後に早弁して、昼休みになるとボールを持って仲間達と校庭へ駆け出していく。   *  話すようになったきっかけは、入学式の日に吉野が消しゴムを忘れたことだった。 「うわ、やべえ消しゴム忘れた……」  隣の席で独り言のような呟きが聞こえてちらりとそっちを見ると、キョロキョロする吉野がいた。  話せるような人を探しているのだろう。 「貸そうか?」  そう言うと、吉野はマジ! 助かった、と言って満面の笑みで笑った。  わたしはどちらかというと人見知りをする方だったけど、吉野はそれとは正反対で、一度話し始めてしまうと前から話していたみたい気軽さで会話することができた。
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