1カタオモイ

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 わたしのお母さんは料理好きで今はやめてしまったけど昔はケーキ屋さんで働いていた。  製菓の有名な専門学校も卒業していて、若いうちから瞬く間に厨房に立てるようになったエリートだ。  二年前に交通事故にあって、命に別状はなかったけど、右足が義足になった。ずっと立ち仕事の多いケーキ屋さんをやめ、今は事務職のパートをしている。  前の職業もあるし、パートがいつも昼からなのもあって凝った弁当を作ってくれる。  デザートもいれてくれる、最高のおかあさんだ。  そのおかあさんの作るお弁当を毎日盗み食いしていく吉野。  きっと彼も、わたしのお弁当が冷凍食品だったら毎回あきもせず盗み食いなんてしないのだろうに。  でも、今朝はたまたま寝坊してコンビニでお弁当を買った。コンビニだろうとなんだろうと、基本的に盗まれるのは恒例行事のようだった。  *  吉野には、彼女がいる。  たまに一緒にいるところを見かけるが、ふわふわして、ちいさくて、かわいくて、白くて、守ってあげたくなるような女の子だった。  吉野に彼女ができたのは2ヶ月前。ちょうど学校祭の後だったらしい。  わたし、竹中花は、吉野拓海が好きだ。  彼女という、ライバル(っていうかわたしにもう勝ち目はないんだけど)が出現したことによってわたしは嫉妬した。それで、わたしは泣く泣く自覚したのだ。  友達には、誰も言ってない。  それまで友達に吉野と仲がいいことを冷やかされることはしょっちゅうだったけど、「そんなわけないじゃん」「うざくて迷惑してるの」ということばっかり言っていた手前、言い出せなかった。  誰にも知られることなく、叶うことなく、わたしの恋は一瞬で終わったのだ。  
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