1カタオモイ

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 ちなみにわたしはバスケ部で、放課後は毎日忙しかった。  とはいえ顧問がなんの専門でもないのもあり、うちのバスケ部は弱小だった。でも、みんな楽しんでやっていて、わたしも体を動かすのは好きだったし、満足していた。  それから、男子バスケット部には吉野がいたから。  たまーに、帰りに話せたりとかするから。それが嬉しかった。 「うりゃっ」 「!」  部活の終わり、一年生の宿命である片づけをしていると、後ろから、タオルを丸めたボールを投げられる。  振り返ると、同じように片付けの最中の吉野が笑っていた。 「痛いな!」 「はは、こんなボールもよけられないなんて本当にバスケ部?」 「はぁ? 今の完全に不意打ちだったじゃん。背中に目なんかついてないし! つーかフェアプレイに反してるだろ、それ!」 「うわっ、痛いところをつかれたー」  いつもの調子でじゃれあっていると、一緒に片付けをしていた男バスの人が言った。 「いちゃつくな」 「いちゃついてねーし! なぁ?」 「そうだよ。勝手なこと言わないでよ、森」  そう言って森を睨みつける。吉野は他の連中とがやがや言いながら片付けに戻った。  ただ、森だけが何もかも見透かしたみたいな目でわたしを見つめていた。 「な、なに」 「べつに」  ふいっと何事もなかったかのように視線をそらされて、むっとする。  何か言いたげだった。絶対言う必要がないとかそういう理由だ。そういうときって、結構大事なことだったりする。  森とは、家がとなりで、森はわたしが中学二年生のときに引っ越してきた転校生だった。  黒髪に、切れ長の目。きりっとした鼻梁。よくいえばクール。悪く言えば無愛想。いっつもムスッとした感じの男で、女にはよくモテる。  大きなぱっちりふたえの目に、柔らかい髪。明るくてサルみたいな吉野とは、正反対だ。 「花、遊んでないで片付けるよ!」 「ごめんごめーん」  中学生みたいなことばっかりしているこの状況が、わたしはすごく楽しくて、楽しくて、好きだった。
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