1カタオモイ

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「してるけど……でもそれは家がとなりだから必然的に一緒に帰ることになるっていうか」 「ずるい!」 「そんなこと言われたって。一緒の方向にいてそこにいるのに無視するわけには行かないじゃん」 「よくわかんないーとか言っといてよく言うわ。あんた、女子の中で森くんと付き合ってるんじゃないかって噂されてるんだよ」 「え、なにそれ。めんどくさい」 「もー、贅沢だ花は」  むくれながら制服を着る千代のとなりで、願わくばその女子の噂とやらが吉野の耳には入ってませんように、と思った。  外に出ると、秋の風がひんやりと蒸した体を冷やした。気持ちよくなって頬が緩む。 「あれ、吉野の彼女だ」  となりで千代が言った。どきっとして千代の視線の先を追うと、ボブカットのかわいくて、ふわふわした、白い肌の女の子がたっていた。 「今日の飯なにかなー。俺、ホイコーロが食べたい」 「なんだそれ」  ゲラゲラと笑いながら、玄関を出てきた吉野たち。 「吉野、彼女きてるよ~」  千代が冷やかすようにニヤニヤして言った。吉野が「え」と声を上げて千代の指差す方を見た。  一瞬、まじめな顔になって、でもすぐにいつものニヤニヤした緩みきった顔になって「じゃーなー」と言って輪の中から外れた。  わたしはその背中を見つめて、いかないで、とそっと心の中で思った。  届いたらいいのに。  ねぇ、吉野。こっちをむいて。  吉野は彼女と二言三言話すと、こっちに大きく手を振って一緒に帰った。手を繋いで、ふたりは歩いていった。きゅ、と胸が締め付けられた。
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