1カタオモイ

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「花ー、帰るよー」  千代が言って、わたしは「うんっ」と大きく返事をして駆け出した。 「え、ちょっと待ってよ」 「かけっこねー、先に信号ついたほうがジュースおごるってことで!」 「ちょっとフライング! ずるー!」  走ると、秋の夜の冷たい風が服の中に入ってきて、ひんやりと冷えた。  大丈夫だ、明日になればまた、吉野はわたしに向かって笑ってくれるから。 「もう、花ぁ。フライングなんてずるいよ!」  後ろから千代がわたしの肩を叩いた。わたしは呆然と、その場に立ち尽くしていた。  信号の向かい側、車の通りが少ないからって、吉野と彼女が抱き合っていた。 「うわっちゃー。やるなぁ、吉野」  それに気付いた千代がそう言った。 「ほんと、よくやるね。あんなの、人目についてあっという間に噂だよ」  精一杯の嫌味を言った。  抱きついていた彼女が、顔をあげて背伸びをした。ああ、と思って目を逸らして歩き出した。 「あ、待って花」 「いこー。なんか恥ずかしくなってきた」 「しっかし、ああいうの見ると吉野も男なんだなーって思うよねぇ路チューですよ」 「そうだね。ああっ!」 「え、なに!」 「わたし炭酸のみたい」 「えー、まさかさっきのじゃないよね? やだよ、あれ完全にずるだったじゃん」 「おいお前ら、うるさいぞ。道の真ん中で」  後ろで男子の声がした。振り返ると、一年生の男バスの面子だった。ただし、そこにはもちろん吉野はいない。  四人いて、そのうちの一人が森だった。森はじっとわたしを見ていて、何もかも見透かしそうな瞳でわたしを見つめていた。
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