1カタオモイ

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「ああ、ねえ見た、あれ」  千代がまた吉野たちを指差した。わたしは見なかった。ただ、じっと見つめてくる森をにらみ返して、 「な、なに」  と聞いた。  森はやっぱり「べつに」と言って逸らした。  6人で帰ることになって、そうなると、必然的に分かれ道がきたとき、わたしと森は二人で帰る。  今日も例のごとくみんなと別れ、残りの道を特に会話が弾むでもなく二人で歩いた。 「おまえさ、損な性格だね」  突然森がそんなことを言い出した。冗談ぽく言われるのなら「なんだとぉ」とふざけて返すところだったけど、森の言い方は真剣で、妙に見下されてる感じがしていやな気分になった。 「なにが?」 「べつに」 「……」  また、でた。いつも森は、なんで、って聞いてもそればっかり。べつに。じゃあ気になるようなこと言うなっつーの!  むっとしてずかずかと前を歩く。さっきのアレを見た後っていうこともあって、わたしの心の奥底に、普段はナリを潜めている真っ暗でねちょねちょした感情がぐるぐるととぐろを巻いてうごめいていた。 「花」  え?  ばっと振り返ると、森はいつもの仏頂面でわたしを見つめていた。  今、花って、呼んだ? 「今……」 「おまえって、損な性格だよね」  今度は、ふっと笑いながら言われた。森が男子以外でいるときに笑うのは珍しい。 「……?」  首を傾げるわたしをよそに、森はごそごそと自分の鞄をあさりだした。  そして、取り出したなにかをひゅんっと投げる。わたしは「わっ」と言いながらも反射で受け取る。飲みかけの、ファンタグレープのペットボトルだった。 「? ??」  ますますわけがわからないわたしに、森はすたすたと歩いて、擦れ違いざまにポン、とわたしの頭を撫でてそのまま歩いた。 「ちょ、ちょっと森……」  慌てて振り返ると、森は背中ごしにひらりと手を振って歩いていった。なんだったんだ、今の。  でもそういえばわたし、炭酸飲みたい、ってさっき千代に言ったけど。だから、くれたのかな。  もらったファンタグレープを飲むと、微妙にぬるくて、少しだけ抜けた炭酸がしゅわっと口の中で弾けた。
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