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勝負をかけたつもりだった。いや、かけるつもりだった。
吉野くんが最近何か考え込むような、何も考えていないような、……上の空、なのはずっと気付いていた。いろんなことを考えた。
少ない頭で、たくさん不安になってパニックになってどうしようどうしようって焦って。
頑張って名前で呼んでみて、笑いかけてくれたときはほっとした。
どうしても不安でしょうがなくて、夜に電話がしたいとメールをして、すぐに電話がかかってきたときは嬉しくて泣いてしまった。
ちょっと頑張ってデートに誘って、ちょっと頑張っておしゃれしていったら、かわいいね、私服。とあのお日様みたいな笑顔で言われたときは、本当に恥ずかしくて嬉しかった。
でも、吉野くんはわたしを美桜子とは呼んでくれなかった。
電話をして不安を吐露してすっきりしたはずなのに、次の日吉野くんに会ったときにはもう不安が戻っていた。
褒めてもらった私服。でも、彼はずっと上の空のままで。
由紀にはずっと相談していた。じゃあ別れればいいじゃん、と冷たい声で言われたときは、勝手に涙がこぼれてきて収まらなくて、由紀を困らせた。
わかってる。めんどくさい女だって。
こんなに痛い苦しいどうすればいいのって泣くくらいなら、いっそのこと別れちゃうのが一番いいって。わかってるけど。
と、悩み尽きないわたしに、由紀が言った。
「じゃあいっそのこと家に誘ってみれば?」
「へ?」
「だってそれが一番手っ取り早いでしょ。手料理だのなんだのって言い訳適当につくってさ」
「あ、うん、そうだね。男の心を手っ取り早く掴むのは胃袋をつかめっていうしね」
「ちがうって。そりゃそっちもそうだけど。やっちゃえっつってんの」
「や……っ!?」
やるってなにを? と聞き返すほど、わたしはバカじゃなかった。
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