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「わ、わたしがどれだけ吉野くんのこと好きかなんて考えたことないでしょ。わたしが、どれだけ吉野くんのこと、見てるかなんて、考えたことないでしょ……!」
ねえ、知ってる? わたしが拓海って呼ぶたび、一回一回緊張してたんだよ。
頑張って呼んでたんだよ。拓海って。
「ほし、」
「一度もみおこって呼んでくれないし、最近はぼんやりするばっかりで、部活の帰りもずっと竹中さんのこと見てるんだよ、吉野くん」
「……」
黙らないで。
なにか言って。ちがうそんなことないって。
形だけでいいから、否定して。
そしたら吉野くん、あなたのその涙が流れない頬を思いっきり叩けるのに。
「ずっと、苦しかったんだか……」
最後の方は、もう言葉にすらならなかった。
大決壊。今まで抱えてきた不安も、必死に手を伸ばそうと名前で呼んでみたり、家庭科で作ったクッキーを自分で食べずに吉野くんに持っていったり、お昼ご飯誘ったりデートに誘ったり、家に、誘ったりしたのに。
全部無駄なことだってわたしは知っていた。
不安は的中していた。ずっと。的に刺さった矢を、わたしは抜こうともせず自分に目隠しをすることで誤魔化していた。
「星野、ごめん」
「知らない」
「ごめん、俺……」
目を覆っていたら泣いているような吉野くんの声。
ずるい。そんな声を出されたら、そんな傷ついていたら、わたしは吉野くんを嫌えない。
抱きしめてくれればいいのに。
そしたら、大好きなあなたのことを、離してって言って突き飛ばすのに。
「本当は、ずっと前から言おうか迷ってたの。でも、手放したくなかったから……せっかく、吉野くんがそばにいるのに、なんでわたしが譲らなきゃいけないのって。ごめんなさい」
「あ、謝るなよ。おまえに謝られたら俺すっごい痛い」
「本当は……絶対自分からは教えてあげないと思ってたのに」
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