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ぎゅっと手を伸ばして吉野くんの手を握った。
この手を、握って、離したくないって、ずっと不安だった。
愛する人がいたとして、本当に愛しているのならその人の幸せを願うべきだ、っていうのは恋愛ものではよく耳にする言葉だけど。
わたしは吉野くんを愛してなんかいない。だって、たとえ吉野くんが他の人をずっと好きでも、今はわたしのものなんだから。誰にも渡さないって、わたしはそう思う。
ほしい。
吉野くんの笑顔を独り占めしたい。
手を握ってくれる。
抱きしめてくれる。
キスをしてくれる。
きっと今日だって、吉野くんは最後までしてくれただろう。
でも、嬉しくて、ほしかったはずの彼の隣なのに、ずっと満たされなかった。
一番欲しいものがずっと遠くにあるような、そんな感じ。
「でも、そんな抜け殻みたいな吉野くん、見てられないよ」
どこが痛いのかわからないけど、痛いとか苦しいっていう思いだけが溢れてくる。
わたしは頑張って吉野くんを見上げて、手を伸ばして、思いっきり吉野くんの両頬を両手でペチンと叩いた。
本当はもっと痛くしたかったけど、力がでなかった。
「わたしは、吉野くん好きだから」
後悔してほしい。わたしを手放したこと。
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