私→彼

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私は彼のことを知らない。 彼が何歳で、普段どんな暮らしをしていて、何が好きで、何を考えているのかも、知らない。 知っているのは、私の唇をなぞる節くれだった手。日に焼けた男らしい手。 ウェーブのかかった黒い髪。 すらりとした長身。 そして声。 私に本当のことは何も語らない声。 私は曖昧だ。 聞かないくせに知りたがる。 知りたがるくせに、臆病。
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