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「ねえ」
夕食が終わり、私の部屋で勝手にくつろいでいる彼の鼻をかぷっと噛んだ。
彼はふふ、と笑ってどうしたのと私の両脇に手をいれ、私をひょいっと持ち上げて、あぐらをかいた長い足の間に座らせた。
「私がさ、」
彼はうんとうなづく。
私は彼の瞳を見る。
澄んだ、どこまでも見透かすような瞳。
綺麗だ。きれい…
そう思った途端、彼の顔がじわりと滲んだ。
いつまでたっても曖昧な自分が、いやで仕方ないっていう怒りと、反面、傷つきたくない自分が途端にごちゃまぜになって、本当に彼に言いたかった言葉の代わりに涙が出てきた。
彼はただ、よしよし、と優しく撫でてくれた。
その夜は何もせずにふたり、ぴったりとくっついて眠った。
そうして翌日の朝、彼はいつもどおり消えていた。
つぎいつ会いにくるだとか、待っててだとか、もう来ないだとか、なに一つ告げずに。
いつもこんな朝は彼が幻だったのではないかと、そう思ってむなしくなって、こんなに曖昧な関係に落とし込んだ自分自身が嫌になって、彼への気持ちを認めたくない自分の気持ちでまたごちゃ混ぜになって泣いた。
何もかも私のせいなのに私ってばさいてー最低最低最低。
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