第一章 自殺宣言と未来迷走

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 田舎から都会へと引っ越しを終えたのは、季節としては初夏の中頃だった。七月。会ったり別れたりの四月が終わり、じめっとした六月が払拭されはじめる心地好い季節は大変好ましい。  軒並むように配置された街路樹が弱めな風に揺られて、涼しげな木漏れ日ロードを作っている。  そんな道を今、正に登校中。  爽やかな通学路を埋めつくすのは、この道の名物なのだろうか。深夜から朝方にかけて訪れる、連日の謎の台風まがいの強風は、大量の若葉をはかなさもなしに散らせた。積もりに積もった緑色は目に優し過ぎる。早くもお世辞にうんざりとしていた。  全然爽やかじゃなかった。自分に嘘をついた。擬似プロローグ失敗だ。現在、二勝三引き分け。  青みのある葉っぱを踏みながら少し滑りかけて第一声。憂いの排出をだらける。 「はぁ……」  爽やかな声は出なかった。まあ俺のため息に、爽やかを求める人なんて居ないだろうけどさ。  転校してきてから一週間が経った。同じ道を五回通ったからには、多少見なれて視界から得る感動もない。時期が進めば虫が異常発生だな、ぐらいの気持ちだ。  艶(あで)やかさがあるぎらぎらした都会というイメージとは一つ違って、転校する前の田舎に負けず劣らず(見映えは圧倒勝ち、KOである)の自然があった。  たんぼと街路樹だと気持ちのエコに優しさが反応して、独善的に後者が勝つ。日本語が迷子である。上等だね! と言える君が素敵。なんて標語は、これからも道には存在しない。 「それにしても、なんつーか……つーか」  あっという間に一週間が経ってしまった。
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