一本場『滞る風』

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この、緊張感。 スタート前のこの緊張感。 勝った後の達成感に勝るとも劣らないスリルを味わえる、この瞬間。 全国中学陸上競技大会、男子200m決勝。 俺にとって、三連覇を賭けた戦いである。 「位置について」 合図だ。さぁ、行こう。今日の俺は非常に調子が良い。 「用意」 弾けるような大きな音がしたのはそれから1秒後。 そして、そこから俺の視界に誰一人映らずに中学最後のレースは終わった。 いや、終わらせてしまったのか。 ゴールテープを切った瞬間に思ったことはたくさんの喜びと少しだけの悲しみ。 でも、後から振り返ればこの時に悲しみなんて考えないでもっと喜んでおけばよかったと思う。 なぜならこれが人生最後の200m走だったのだから。
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