日常が壊れる日

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寝耳に水、の状態だった。店長にすみません、と言い、あわてて店の裏側へ移動する。 意味がわからずに呆気にとられる自分に、もう1人のヤンキーっぽい若い男性がタバコを口にくわえながら、「本当に知らねえのかよ?娘なのによ」と睨んでくる。 それを制して、先ほどの男性が困ったように背広の内ポケットから、1枚の紙を取りだす。 「借用書があるんですよ。まあ、いきなりこちらへお伺いしたのには訳がありまして」 チラリ、と若い男性を見て、あれを出してとささやく。 わかりましたと彼はズボンのポケットから折られた封筒を出す。 「こちらが届きまして。…私共も少々驚いたのですが。どうぞ」 はあ、と渡されたその封筒には一通の手紙が入っていた。「"兵堂様 大変申し訳ありません。お借りしている金額について、支払いは難しく、私共がいなくなった際には、1人娘の陽代へこの件をお話くださいますようよろしく……よろしくっ!?」 「まあ…ご両親は夜逃げされた訳です」 「ようは、あんたは立派なご両親から借金を背負わされた訳だよ」 頭の中には、"夜逃げ"、"借金"、"肩替わり"等の文字がぐるぐると回っている。軽いめまいも感じ、しゃがみこむ。 若い方の男は、「オイ。大丈夫か?」と言って肩を叩いてくる。 「突然のお話ですので、驚いたでしょうね」 もう1人が、同情するように、立ち上がれない自分に優しく声をかけてくる。 「まあ、ご両親に裏切られた訳ですからね……今までに何か相談はなかったのでしょうか?」 ブンブンと大きく横に頭を振る。というか、最近は全く音沙汰無し状態だった。 たまに母からハガキが届く程度。『今年は帰ってきてね』と必ず最後はその言葉で終わっていた。 (何か言いたかったの……?じゃあどうして直接電話してこなかったのよ) 「店長さんが呼んでいますので、また後でご相談しましょう。今後の件も」 それでは、と頭を下げ、2人は店を去る。 ヨロヨロと腰を上げ、壁に背中をつけた。 まだ頭の中はボウッとしていて、叫んでいる店長の声にも気付かなかった。
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