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「えー、9月の運動会の話だが」
中澤は分厚い唇を開けて
どもりながら言った。
えらい。
土日で忘れる前にその話題を出すとは…
塾に通っている連中がチラチラと時計を見る。
中澤はいつもは口数が少ないから
(彼の数少ない美点)
計算が狂ってしまったのだろう。
教室の空気が停滞し始めた。
「えー、運動会のクラスの、あの、リーダーを決めたいと思う」
「えぇ―――?今更ぁ?」
「ていうか5時から塾なのに…」
「リーダーとか学級委員がやりゃいいじゃん」
「今日の小テストの範囲どこ?」
クラスメイト達はそれぞれ勝手な事を言い出した。
中澤は顔を真っ赤にしている。
これは滑ったのを恥じらっているのではなく、
自分の名案をこけにされて怒っているのだ。
「あー静かにっ!!」
と低い声で唸った。
まさに熊だ。
くまのプーさんじゃないぞ。
中澤は長く複雑な言葉を言うは不得意だが
短く単純な言葉を使うのは得意だ。
教室が一瞬で静かになった。
みんな中澤ではなく内申書が怖いのだ。
「やりたい者は、えー、立候補するように」
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