ひとり

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手を繋いで泊まっていたホテルへ走る。 俺が沙紀を引っ張る形だった。 海から少し離れた帰り道。 丁度電信柱の横を通ろうとした時。 大雨で街の方の川から溢れてきた大量の水の塊が俺たちにぶつかってきた。 俺は電信柱にしがみついていた。 でも、沙紀が居なくなっていた。 手の力を緩めなかったのに流された。 「沙紀」と呼ぶ俺の声も、「真人!真人!」って助けを求める沙紀の叫び声も水や騒音に掻き消された。 しっかり掴んでいた筈なのに… 傍に居た筈なのに… 確かにこの手に温もりがあったのに… 結婚するって言ったのに… 沙紀とやっと逢えたのに… なんで… どうして… 沖「沙紀ー! 沙紀ー!」 必死に叫んでも聞こえるのは地面に叩きつける雨の音だけだった。 俺が求めていた声は聞くことが出来なかった。 俺は泣いた。 カッコ悪く、声をあげて泣いた。 ……… やがて雨はおさまり台風は通り過ぎた。 警察も必死に動いて、ある日俺が呼ばれた。 沙紀の死体が見つかったらしい。 あの浜辺へ打ち上げられたらしい。 泣き腫らした目で沙紀の姿を見る。 身体中に打撲傷が沢山できてて、骨も折れていて痛々しく見ていられなかった。 沙紀の左手の薬指には装飾の取れた指輪がしてあった。 警察の話を聞くと、沙紀は発見された時、同じ小さな箱を二つ握り締めていたらしい。 片方は俺が沙紀にあげたもので中身は何も入ってなかった。 もう片方には指輪が入っていた。 俺が選んだ物と同じ装飾の指輪。 沙紀の持っていた指輪は俺の指にピッタリはまった。 fin.
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