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あー、少し昔の話をしようか?
当時、生きる屍みたいな俺に、誰も手を差し延べてくれなかった。俺自身もそれを望んでいなかった。
だから、周囲から見離されるために俺は【鎧】を着たのだ。
近づきにくさを出すために髪を赤く染め、ピアスを開けた。
口調も、雑なものに変えた。
当たり前にように守っていた校則を意図的に破り、「劣等生」や「不良」を演じた。
必要以上に絡んでくる奴には冷たくし、目が合えば睨んだ。
ケンカも、たくさんしていた。
こうして、見事に落ちぶれることに成功した俺は、適当な私立高校を受けて、4月からそこに入学することになった。
…悠灯に出会ったのは、そんなとき。
出かけ先で偶然見つけた、夕日が綺麗な高台。
あまりにも、無垢なその夕日に、急に自分がみじめに見えてきたのだ。
カタチだけの【鎧】は夕日の前では意味もなくボロボロと崩れ落ちた。
そして、隠していた心の傷が、一気に開いてしまった。
壊れたように、涙が止まらなくて。
心はもうボロボロで。
・・・が、そこには先客がいた。
それが、悠灯だった。
夕日の高台は、彼の秘密基地だったのだ。
色々あって(追々話す)、悠灯は俺に手を差し伸べてくれた。
俺が、望んでいないもの。
信じられないもの。
誰かから差し伸べられる手は、いつも黒くドロドロに汚れているように見えたから。
だけど…不思議だった。
悠灯から差し延べられた手だけは、この夕日みたいに、すごく輝いて見えたんだ。
同時にどうしても欲しく感じた。
ほかの奴とは何かが違うと直感した俺は、悠灯に拾われることを選んだ。
悠灯が
『何も言わなくていいから』
『そばにいる』
『大丈夫』
って…俺を抱きしめながら囁いてくれた時…
俺の心の中の、なにかの“枷”が外れたのだ。
何ヶ月もまともに生活していなかった俺は、
再び、眠れるようになった。
再び、ちゃんと飯を食えるようになった。
再び、ちゃんと目を見てしゃべれるようになった。
悠灯、お前は俺のスーパーヒーローなんだぜ…。
さて、昔話はこのくらいにしよう、悠灯が不安げに俺を見ているから、な。
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