🆕プロローグ: 碧い風と旋律…そして僕等は出会う

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――――――碧い風。 別に、風に色があるわけじゃないが、そう文学的に喩えているのを、何かの本で読んだ気がする。 ちょっと、青臭いけど爽やかな初春の香り。 季節感があって、嫌いじゃない。 碧い風が吹き抜け、若草が生い茂る土手を歩く。 一歩進むたび、風に揺れた、あおい草花がざわざわと音を立てる。 春休み中なので、普段はたくさんの学生が歩く土手も、今歩いているのは俺だけ。これから、部活なのだ。 春といっても3月。 まだ肌寒くて、身を縮めて早足で歩く。ブレザーの制服は首元が寒いのが難点だ。マフラーをする季節はもう終わりだと思っていたが、巻いてくればよかったな…と今頃後悔しても遅い。 3月もあと一週間ほどで終わる。今ぐらいの時期ってもう少し暖かった気がするのだが。 (・・・寒いのは、嫌いだ) 寒さに、ため息を軽くつきつつ、土手の直ぐ隣、桜の並木に視線をやる。 その蕾は固く閉じたまま。この寒さが続けば、このまま寒ぎこんで出て来なそうだ。 確か、急に気温が下がった後に気温が上がると開花するとか聞いたことがある。 4月になれば、今日みたいな寒い春の日のことなんて、知らん顔で花を咲かすんだろう。 (・・・今もサボるなよ 桜。) そうだとしても、納得いかない。 寒いのが嫌いな俺が、我慢してこの距離歩いてんだぞ文句言うなよ!、…なんて、寒さを紛らわすために行き場のない気持ちを、ぬくぬくと蕾に閉じこもる桜へと向ける。 あー…自己紹介がまだだった。 俺は御子柴 悠灯。音楽が好きな普通の高校生。 今は1年生で、4月で無事2年に進級する。 そして、音楽好きというだけあり、アルトサックスのプレイヤーだ。吹奏楽部、ジャズ喫茶「黒猫街」でプレイヤーとして籍を置いている。 まだ、初めて1年と少しの初心者だが、完璧主義をフル稼働させて毎日地道に練習を重ねてきた。おかげで1年でかなり吹けるようになった。 ここまで来るのは相応の努力を要したのだけど。たった一年で経験者に追いつくのは無理に等しい。 そこで、ジャズ喫茶でウェイターをやりつつ、プロや上手い先輩の演奏を生で見学したり、教えてもらったり…とプライベートでもサックスのトレーニングしていたのだ。 今では部活でもジャズ喫茶でも、ステージに立って、サックスを吹ける立場にまで登りつめた。 たった一年、と今なら言うが、長い一年だったと思う。
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